電車に揺られてとなり町に行くこと、さまざまな商品が行儀よく並んでいる店内、大食堂での昼ごはん、そして屋上のアトラクション…どれも新鮮でした。
そんなデパートの中にあって強く興味を惹いたもの…それはエレベーターです。
現在、デパート内のほとんどのエレベーターは自動運転(管制運転)になっていますが、かつては乗務員がいてフロアの案内やエレベーターの操作を手動で行なっていました。手動といってもゴンドラ(かご)自体はモーターで動きますが…。
エレベーターガール(この用語は男女雇用機会均等の観点から使われなくなりました。以下、エレベーター運転員と呼ぶことにします)が「上へまいります。2階、婦人服売り場でございます」と上品な声でアナウンスしながら、手元でさまざまなボタンを操作していました。
私はあのボタンがとても気になりました。細長いレバー、「通過」といったボタンは近所の高層マンションのエレベーターには付いていないものでした。白い手袋をつけたエレベーター運転員が巧みに押下するあのボタンのファンクションを知りたいと思いました。
先日、埼玉県さいたま市大宮区にある某デパートに立ち寄った際、子どもの頃に乗ったエレベーターが健在であることが分かりました。運転方式は自動運転になっていますが、操作盤には手動運転時代の計器、ボタン類が残されています。
かつての好奇心がよみがえってまいりました。
ここで操作盤の機能を記録に残してみたいと思います。
まずはボタンから。
こちらの画像をごらんください。操作盤のうち、手動運転で使うボタン類を撮影しています。
開・閉ボタン…扉を開閉するおなじみのボタン。自動運転の際にもこのボタンは機能するが、扉の連続開放を防ぐために一定時間を過ぎると自動で扉は閉まる。
上、下ボタン…手動運転では、各階の呼び出しボタン(乗り場呼び)を無視して上・下階に運転することができる。上階方向にエレベーターのかごを移動させたいときは、「上」ボタンを押し、出発レバー(後述)を押す。
通過ボタン…乗り場呼びが呼び出し状態になっていても通過ができる。満員のときや、エレベーターのかごを特定の階に上げ下げするとき(回送)、急行運転(特定階を飛ばして運転する)などに使用する。
レバー…出発レバー。かご内の階数ボタンを押し、「閉」ボタンを押し戸閉操作をしたのち、この出発レバーを下方向へ押すと、指定した階数までかごが移動する。手動運転では頻繁に使用するため、他のボタンより大きく、押しやすい構造になっている。
こちらは操作盤のうち、エレベーターの挙動を表示する計器類を撮影した画像です。
これらの計器類は「アナンセーター」と呼ぶそうです。
メーター…このアナログ感あふれるメーターは他機の位置(階数)を表示するもの。画像のエレベーターは1号機で、隣接する2、3号機の位置が確認できる。他機の位置を見ながら自機の位置を調整して、スムーズな乗客輸送を支援する。ちなみにメーターの針は、理科の実験で使う検流計のような遊びのある振れ方する。
メーター下の表示灯…停止要求ランプと呼ばれる。自機を呼び出している(乗場呼び)階数を表示。乗客が上り方向に行きたいのか、下り方向に行きたいのかが分かる。画像では、現在乗車中のエレベーターはB1階にいて(白色ランプ)、2階に上り方向へ(緑色ランプ)、8階に下り方向へ(赤色ランプ)行きたい乗客がいることが確認できる。
よって、最上階には上り方向ランプが、再下階には下り方向ランプは配置されていない。
エレベーター運転員はアナンセーターで他のエレベーターかごの位置や乗場呼び階数を把握し、さらにはかご内で乗客のオーダーを確認しながらボタンを操作していたわけです。なんともアナログなオペレーションです。
現在のエレベーターの自動運転システムは、複数のかご位置や待ち時間、混雑時間の利用頻度などを考慮した運転プログラムが組まれています。
かつてはきっとこの世界にも、メーターを読み取ったり、各号機の運転員と連携を取りながら混雑するデパートで乗客のフロア移動に尽力したプロフェッショナルがいたはずです。オートメーション化されたいま、この技術を持つ人は日本国内では数えるほどしかいないのではないかと考えられます。
エレベーターも機械ですから、老朽化による更新時期が必ずやってきます。
2012年現在でこの操作盤を持った機械が残っているのは貴重ではないでしょうか。
更新する日がやってきたら、もう一度、この手動運転を実演してしてほしいと願っております。
古いエレベーターのボタンひとつから見えてくるものが数多くあります。
★参考資料:
→エレベーター通信 エレッツ
→YouTube gf0204kiさんのチャンネル
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