2015年07月02日

2015.07 美と技巧に浸る4時間 〜巣鴨とげぬき地蔵尊・弥治郎系伝統こけし製作実演〜


動画は新山実工人が独楽を挽いている模様を収録しています。
リンク先に各工程の簡単な説明を加えておりますのでご参照ください。

弥治郎系実演展示1
私が伝統こけしへの興味をより強くしたのは、昨年出かけた巣鴨とげぬき地蔵尊(高岩寺)での「伝統こけし製作実演」でした。分野が違えどモノ作りの現場にいた過去のある私にとって、伝統こけし職人(工人と呼んでいます)が原木から作品に変えていく過程に強く惹かれるものがあり、何時間も見ていたことを思い出しました。
さらに会場にいらした「東京こけし友の会」幹事の方々から伝統こけしの見どころ、魅力についてお話を聞けたことも大きな収穫でした。

その「伝統こけし製作実演」が本年も開催されるとのことで、ちょうど仕事の休みと重なった7月2日の初日に足を運ぶことができました。

弥治郎系製作実演2
今回で7回目を迎える製作実演は弥治郎系。
白石市の鎌先温泉近くにある弥治郎地域を中心に作られている伝統こけしで、頭頂部分のカラフルなろくろ線(通称ベレー帽)や前髪部分に描かれた半円状の房飾り、バリエーションのある胴形状といった特徴があります。色彩がとてもポップな印象があり、かの米国デザイナーのイームズ邸に飾られた伝統こけしのうち一本はこの弥治郎系の鎌田文市工人作品であったことは広く知られています。
(ちなみにもう一本は鳴子系の後藤善松工人作品とのこと)

会場では3人の工人による製作実演のほか、作品や物産の販売が行なわれております。
数多くのこけしたちが一堂に整列しておりますが、一本一本表情が異なります。お気に入りの作品を見つけるために思わず目を凝らしてしまいます。

弥治郎系製作実演3
今回はじめて他県での、しかも東京での実演という吉野稔弘工人。
ろくろの仕組み、カンナの刃先形状についていろいろお話を聞かせていただきました。

稔弘工人は1981年生まれの若手工人。以前はさまざまな仕事を経験しており、ふとしたきっかけからこの世界に入ったとか。私も複数の転職をしているため新しい仕事を覚えることの大変さ、今までと違う世界を知る楽しさは共感するところがあるなと感じました。

伝統こけしの世界も後継者が少なく、貴重な技術と作品の系譜が途切れる危機に面しています。
一方、仕事の選択肢として伝統こけし製作をはじめとする木地業を志す若い人たちも少しずつ出てきているという明るいニュースもあります。

稔弘工人は技術の向上と先代の型式研究にとても熱心で、伝統こけしの魅力を伝えるためネットなどでの情報発信も積極的に行なっています。今後も応援していきたい工人さんです。

弥治郎系製作実演4
新山実工人の「栄五郎型髷」と呼ばれる作品を以前から入手したいと考えていましたが、ついにその機会がやってまいりました。

細い面相筆で描かれた面描は奥ゆかしさが感じられます。カラフルな胴模様で部屋に置くとずいぶんと雰囲気が明るくなります。先代の栄五郎工人の型を継承しながらも、淡い頬紅(チーク)でメイクするなど現代のトレンドを採り入れています。ちなみにこのチーク、非油性の特注品だとか。

弥治郎系製作実演5
とげぬき地蔵通り商店街の公式キャラクター「すがもん」と記念撮影する新山真由美工人。
全国各地の伝統こけし関連イベントに招かれ、2012年にはルーブル美術館での製作実演を行なっています。
バイタリティーがあって会場を盛り上げてくれます。面描実演では真剣勝負の眼差しで繊細に筆を運んでいたのが強く印象に残っています。

弥治郎こけし✕白石温麺
近年のこけし関係物産品の中で秀逸と感じたのがこの「弥治郎こけし✕白石温麺」。
地元白石のきちみ製麺さんの製品で、商品開発に携わった木村さんも製作実演会スタッフとして参加されていました。曰く、3寸の小寸こけしを見ていたら白石温麺の束と同じ高さであることに気づき、これをパッケージにしてみようと考えたそうです。

包装紙のデザイン、持ち運びやすい大きさ、箱を開けたときの楽しみ、保存期間、価格、味覚など、さまざまな考慮があってなるほどなと感じます。余談ながら私は自炊宿に宿泊するときは白石温麺を持っていきます。かさばらず、さらに折れずに持ち運べること、鍋ひとつで調理できること、どんな副菜(おかず)にも合う食材だからです。


かれこれ会場で4時間近く鑑賞、談笑しておりました。
弥治郎系伝統こけしはカラフルでモダンな印象があり若い方にも人気がある系統です。伝統こけしに興味を持たれた方にとっても「入りやすい」と感じるのは、伝統的工法を受け継ぎながらも現代のセンスを積極的に取り入れる「間口の広さ」があるからなのだろうと思います。一方、バリエーションが多彩なため、年代別、工人別、地域別などさまざまな観点から作品を見ていくとこれまた深いのです。またひとつ伝統こけしの魅力を学んだ一日でした。
posted by STIJ Project at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | こけしと郷土玩具の話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月14日

15.01.14 神宮前で佐々木一澄さん個展「集めたり描いたり」をみる

佐々木一澄さん個展会場
2014年6月に開催された「とげぬき地蔵尊こけし実演販売」、さらに7月に開催されたイラストレーター・佐々木一澄さんのトークイベントに参加して以来、今まで以上に東北地方の伝統こけしや各地の郷土玩具への興味が高まってきました。
→2014.7とげぬき地蔵尊こけし実演販売の記事はこちら
→トークイベントに参加したときの記事はこちら

「鳴子温泉「玉子屋本店(おかしときっさ たまごや)」のはなし。」で触れたように、お店の中に散らばっているジグソーパズルのピースと私の身のまわりで見つけたピースをはめ込んでいるうちに、どうやら自ら見たいと考えている絵柄の方向が次第に明らかになっていくように感じています。

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そんな折、1月9日から神宮前四丁目の「OPAギャラリー」で佐々木一澄さんの個展と郷土玩具の展示・販売が行なわれるとの話題を聞き、久々に表参道へ足を運んでみました。

AppleStore表参道
南青山の職場に通勤していた頃から10年近い月日を経て降り立った表参道駅。あの頃、地下鉄駅を降りて地上に上がると自ずと方角が分かったものですが、今となってはすっかり方向感覚を失ってしまいました。
「AppleStore 表参道」を基準点に設定し直し、神宮前のギャラリーに向かって歩き出します。

OPAギャラリー
大通りの喧騒と対照的に閑静な(…一時期に比べてマンションに空室が多く見受けられるようになりました…)神宮前の住宅街を歩きながら約5分、会場の「OPAギャラリー」が見えてきました。

OPAギャラリー
このスペースは作品展示を行なうギャラリーコーナーと、アーティストの作品を販売するショップコーナーが併設されています。

OPAショップ
ショップでは全国各地の郷土玩具を展示・販売しています。
・桜井昭寛工人(鳴子)の「永吉型・岩蔵型」こけし
・西山敏彦工人(土湯)の「勝次型・辯之助型」こけし
・浅草・白井家の「今戸焼・丸〆招き猫」
・静岡・浜松張子「首振り虎」
・大分・玖珠の「きじ車」
・熊本・永田禮三さんの「木葉猿」
など、長い伝統を現在に受け継ぐ作品が一堂に会する機会はとても貴重です。人気が高かったり製作数が少なく入手しづらい作品も中にはあります。

日本の郷土玩具
ギャラリー内で佐々木さんの作品とともに展示されている所蔵郷土玩具の一部。
郷土玩具と言うと、「おじいちゃん家のタンスの上に飾ってある地味な置物」というイメージを持つ方もいるそうですが、よく見れば色彩、表情、形状…それぞれに強い個性を持っていることに気づきます。

三春張子
鮮やかな色彩と躍動感のあるフォルムの三春張子「鞨鼓(かっこ)」。鞨鼓とは雅楽で用いる太鼓のこと。

鴻巣練人形
漫画的な表情で(むしろ現代の漫画的表現の源流となっているのがこれらの作品であったりする)、じっと眺めていると思わず見ている側がニヤッとしてしまう鴻巣練物の「福助」。
桐箪笥製造時に出た木の粉に麸糊を合わせたものを原材料としています。
埼玉は隠れた郷土玩具の産地で、ひな人形で名高い鴻巣、岩槻のほか、春日部、越谷、浦和、飯能も産地である(あった)ことを勉強するにつれ知りました。

ずぼんぼ土鈴
一度聞いたら忘れられないネーミングな「ずぼんぼ」。
浅草観音発祥の玩具で、紙製の獅子や虎を団扇であおいで浮かせるなどして遊んだそうです。
そんなずぼんぼを土鈴にしたのが上の画像。残念ながら現在は作られていません。
ちなみにずぼんぼの語源は獅子舞の囃子ことばからきているとか。

大山こまの木地玩具
神奈川県伊勢原の「大山こま・はりまや」の木地玩具職人さんが作った「車もの」。
伝統こけしと同じくロクロを使って木材を加工しています。
展示品の中で群を抜くユルさ具合で、ギャラリー来訪者の間でも話題になっていました。
どこかで見かけたようなデシャヴ感、蛍光ピンクな彩色、ラフな釘打ちなどツッコミどころ見どころの多い作品です。

船渡張子イラスト・松茸抱きおかめ
佐々木さんの郷土玩具イラスト作品を購入してまいりました。
ギャラリーには郷土玩具の製作者を描いた作品もあり、使用している道具や製作時の表情に興味を覚えました。

こちらは埼玉の越谷で作られていた船渡張子「松茸抱きおかめ」を描いたシルクスクリーン作品です。
見た瞬間、直感的に「これだ」と思いました。
「松茸抱きおかめ」のネーミング、表情、描写など、個人的なツボにはまりました。
子孫繁栄の縁起物であることは見ての通り。

船渡張子は亀戸天神前で天神まんじゅうを製造販売する菓子店「天満屋」で売られていたもので、「亀戸張子」とも呼ばれています。
現在、船渡張子の作り手は存命しているものの制作はしていないとのこと。船渡張子に限らず、調べていくと自分の身近なところで郷土玩具が作られていることが分かってきますが、それに気づいたときにはすでに実物を作れる人がいなくなっているのが現状です。「もっと以前に気づいていれば…」と思うわけですが、興味を持たなければ郷土玩具の存在にすら気づくことができなかったはず。多くの人たちがそれぞれの感性で郷土玩具に接することのできる機会が増えてほしいなと考えます。


〜余談〜
青山北町アパート2
ギャラリーに隣接している「都営青山北町アパート」の風景。
東京の青山にいることを一瞬忘れてしまう空間…。

青山北町アパート1
建物の老朽化で改築が予定されているとのことで、この風景をカメラの中に残しておきたいと思いました。
posted by STIJ Project at 23:28| Comment(0) | TrackBack(0) | こけしと郷土玩具の話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする